「ねぇ、紗綾先輩。俺、希望持っていいんスよね?」
「え?」

 やはり問われることの意味は紗綾にはわからない。

「だって、俺からは逃げなかったじゃないっスか。リアムに迫られて部室に逃げ込んだんスよね?」
「あ、えっと、あれは、何か、ビックリしちゃって、どうしていいかわからなくて……」
「変な外人がわけわかんないことを言い出すから?」
「だ、だって、いきなり結婚を前提とか婿養子とか……」

 確かに逃げ出した。
 その事実を思い出せば、胸の内に重たいものが溜まっていく気がした。
 きっと、それに名前があるならば罪悪感だろう。

「あいつ……俺も本当にクラスが一緒なだけっスけど、どうにも思い込みが激しいんスよ。俺もケイトは女の子の名前だって話から始まり、こんな頭してるもんで、国籍とか聞かれたり、気が付いたらフレンド扱いっスよ」

 圭斗は迷惑そうだったが、そこまで邪険にするのは可愛そうだと紗綾は思ってしまう。
 けれど、そんな紗綾の心を察したのか、圭斗は暗い表情を見せた。

「俺がクラスの奴に捕まってなければ、もっと早く助けてあげられたのに……」

 悔いるような圭斗に、紗綾は言葉が見つからずに困惑した。
 そう言われてしまえば、思ってしまうのだ。
 もしも、彼が部室にいたら、もっと十夜に迷惑をかけずに済んだかもしれないと。