文化祭の翌々日、振替休日であるこの日、紗綾は駅前にいた。
 海斗と待ち合わせをしているのだ。
 依頼人からの相談に付き添ってほしいと言われ、どうせ暇だからと了承したのである。
 自分にとって何か得るものがあるのではないかと思えば悪い話ではなかった。


「すみません、折角の休みなのに」

 約束の時間より少し前に現れた彼はやはり今日も穏やかだった。
 それこそ、あの冷たい態度が嘘だったのではないかと思うほどに。
 けれど、警戒心を捨てることはできない。

「特にすることもないですから……」

 紗綾にとっては体験学習のようなものという意味合いもあった。
 今までもオカ研として黒羽オフィスの仕事を手伝わされてきた。
 だが、大抵の場合、紗綾は連れて行かれただけで、自分から何かしたという記憶がない。できるはずもないと思っていた。
 けれど、自分にできることがあるならば、その術を身につけたいとも思っている。
 もしも、自分だけにしかできないことがあるのならば、知りたかった。