「じゃあ、この後の上演、一緒に見に行こうよ」

 香澄は本当に何気なく誘ってくれたのだろう。彼女にとっては当たり前のように。
 たったそれだけのことなのに、なぜか涙がじわりと滲む。

「え、何、どうしたの?」

 何でもないのに、涙を浮かべるなど不審に思われただろうか。
 このままだと香澄に泣かされたと思われてしまうかもしれない。
 迷惑をかけたくないのに、じわじわと滴は溢れ出ようとする。

「なんかね、文化祭だなぁって」

 上手く言葉を伝えられない。もっと言いたいことがあるのに、声にならない。

「あー、去年とか全然楽しくなかったでしょ? ダメよ? ちゃんと青春しないと」

 香澄には伝わっているようだった。
 全く楽しくなかったわけではないが、普通とは言い難かった。
 こういう何気ないことが、何も特別でないようなことが欲しかったのだ。

「私があいつらに取られたあんたの青春を取り戻してあげる!」

 よしよし、と頭を撫でられて、香澄に抱き着きたい気持ちになる。
 とても良い親友を持てたこと、それが何よりもの幸せに思えた。