「海斗さん……圭斗君のお兄さんには、仕事を手伝ってほしいみたいなこと言われたし……」
「だって、その人、なんか怖いんでしょ?」

 紗綾は黙って頷く。彼には二面性がある。自分に見せる顔と圭斗や元恋人に対する冷たい態度が頭から離れない。
 どちらが本当なのかわからないのだ。

「次に会う時は私も立ち会おうか?」
「ううん、大丈夫」

 香澄がいれば、相手が誰であっても怖いものはないと思える。
 けれど、自分で乗り越えて、やっと問題が解決するように思うのだ。
 彼女は何度でも心配してくれるかもしれない。
 優しい声をかけて、助けてくれようとするかもしれない。
 だが、頼るのは本当に困った時だけにしようと決めていた。

「そうだ。演劇部とか見に行った?」
「ううん、何となく入り辛くて……」

 演劇部と言えば紗綾も興味はあった。部長を始め、強烈な個性を持った部員達によるオリジナルの演目が話題になっている。
 だが、宣伝のために歩き回らなければと思い、今年も見ることはないだろうと諦めていた。