廊下で香澄を待っていると前方から野島がやってきた。
 彼は歩く宣伝ポスターであり、体の前後に貼り付けている。

「よっ、月舘。なかなか評判だぜ」
「野島君が頑張ってるからだよ」

 きっと、そうに違いないと紗綾は思っていた。
 彼にも何か差し入れを買ってくるべきだったのかもしれない。随分と校内を歩き回っていたようだ。

「田端だったら、そんなこと絶対言ってくれないって! いや、お前だけだよ、月舘!」

 野島は妙に感激しているようだったが、タイミングが非常に悪かった。

「私が何?」

「い、いや、何でもねぇよ」

 野島の後ろに立っているのは香澄だ。
 ギシギシと音がしそうな様子で振り返った彼はごまかそうとするが、無駄だった。