彼を追い払ったことに満足したのか、久遠は小さく息を吐いた。

「久遠さん……」
「本当に君は生身の人間に対しては危なっかしいね」

 何を言ったのか紗綾にはよく聞こえなかったが、聞き返そうとは思わなかった。

「離れて大丈夫なんですか?」

 なぜ、彼がここにいるのだろうか。それが疑問だった。彼はオカ研の客寄せパンダであるのに。

「早めにお昼調達してこいって言われて買い出し」

 笑って、久遠は両手に持った服を掲げる。色々な店の食べ物がそこに入っているらしかった。

「今、光君が来てくれてるし、その顔でサービスしてもらってこいって言われて……ひどいよね、うちの親」

 永遠子ならば言いかねない。紗綾は妙に納得してしまう。

「大体、焼きそばとかって男の子が作ってるでしょ? 母さんが行けば心なしか大盛りになると思うんだけど、嵐さんまで『お前は両刀だから』とか言うんだよ? まあ、この通り大量なんだけど」

 成果はあったようだ。

「さすがに汁物運ぶのは大変だから配達頼んじゃった。おでんとかカレーとかうどんとかさ」

 デリバリーのサービスなどあるのだろうか、紗綾は首を傾げる。だが、彼に頼まれれば断れないだろう。