「もし、良かったら、少し案内してくれませんか?」

 案内がてら真剣な話をするのは難しいだろう。彼も文化祭を楽しみにきただけかもしれない。

「私で良ければ」

 どうせ、暇なのだ。一人でフラフラしていれば、また会ってしまうかもしれない。彼には何でもわかってしまうかもしれない。
 それならば、と紗綾は彼の望み通りにすることにした。


「今日は、随分と可愛らしい格好をしているんですね」

 紗綾はふと自分の格好を思い出して恥ずかしくなり、慌てて口を開く。

「クラスで浴衣カフェをやっているんです。急遽決まったのでパンフレットにはただのカフェなんですけど。でも、他の子はちゃんとした浴衣で、ピンクとかで可愛いんですよ」

 羞恥心を紛らわすために一気にまくし立てて、余計穴に入りたくなってしまう。
 だが、海斗はそれでも微笑み続けていた。

「それは、嵐さんの趣味ですよね」

 今正に大人しくなろうとしたのにも関わらず、大きく何度も頷いてしまう。
 けれど、そう思うのも、無意識の反応の理由も、全ては彼が大人だからなのかもしれない。
 嵐よりも若いのだろうが、それ以上に落ち着いているように思えるのだ。