また一人で回ることになった紗綾は外に出てみることにした。
 前庭には多くのクラスの模擬店が集結する。そろそろ、何か食べ物を買いたい気分でもある。
 その途中で紗綾は思わぬ人物と遭遇することとなった。

「海斗さん……」

 偶然か、それとも必然なのか。
 彼は微笑みながら手を振って、ゆっくりと近付いてくる。
 何気ないようで、妙な存在感がある。側にいるほどに、それを感じる。
 言い換えれば恐怖なのかもしれない。
 遠ざけたい気持ちと知りたいという好奇心が交錯する。

「今、大丈夫ですか?」
「はい」

 断れないのが紗綾の性格である。
 彼が何を考えているのかはわからない。それなのに、拒絶することができない。
 変わらないはずの日常が壊れたのは彼の存在があったからだ。彼が崩壊の種を蒔いた。けれど、彼でなければできなかったように思うのだ。
 そもそも、真実を隠蔽してきたのはオカ研の方だ。
 彼が現れなければ卒業までそのままだったかもしれない。
 だから、彼を憎むべきか、感謝すべきかわからないでいる。