「あれ? 月舘さん、まだ着替えてないの?」

 後ろからひょこっと顔を出すクラスメイトに紗綾はビクッとした。まだ、言葉が浮かんでいない。
 そして、その視線はすぐに紗綾の手に注がれ、バッと奪い取られる。
 びらっと広げられる衣装、全容が明らかになって紗綾は頭を抱えた。
 以前に着たものとデザインが違うのだ。
 黒くてヒラヒラというのは変わらないが、浴衣風のデザインで袋の奥には帯らしきものも入っている。

「ゴスロリ浴衣だったんだ? いいじゃんいいじゃん! 可愛いよ!」

 好都合というものだろうか。
 半年近く前のことなど誰も覚えていないのかもしれない。そこまで見ていなかったのかもしれない。
 一体、何に動揺したのかわからなくなる。

「今日は頼むよ、歩く看板娘!」

 バシッと背中を叩かれて、何とも言えない気持ちになる。

「看板娘……」

 いつの間にそんなことにされてしまったのだろうか。

「まあ、一応、これも浴衣ってことで、ありなんじゃない?」

 全員浴衣の中で一人だけ黒のワンピースよりは抵抗がないかもしれない。
 ただ部室には他の衣装が隠されているのではないかと思ってしまうのだ。
 そんなことを考えてしまうのは未練があるからなのかもしれない。