「で、紗綾はいいの?」
「何が?」

 何の話だろうか。紗綾の頭からはすっかり飛んでいた。
 それには香澄も呆れ顔だ。

「何がって……着ぐるみのアルバイトみたいな」
「き、着ぐるみ……?」

 どこから、そんなものが出てくるのだろうか。

「だって、そういうレベルでしょ?」
「でも、着て歩くだけなら……私も何かしたいから、だから……」

 必死に伝える。

「わかった」

 香澄はと頷く。納得してくれたようで紗綾はほっと息を吐いた。

「じゃあ、止めない。でも、本当に嫌だったら、ちゃんと言いなさいよ?」
「大丈夫だよ」

 いつまでも頼ってはいられないのだ。
 退部届を出してしまえば、守ってもらう理由もなくなる。
 早くそうしなければと思うのに、躊躇いがあった。
 独り立ちしたいと思っているのに、守られるのはやはり楽で抜け出しがたかった。