「前に、ゴスロリの月舘さんを見たって子がいてね」
「あ、オカ研の勧誘する時……」

 不意に思い出すのは若干忌々しい記憶だった。
 立っているだけで良いからと嵐に着せられたのだ。今でも思い返せば穴に入りたくなる。
 あの頃はオカ研の悪魔には逆らってはいけないと思っていたのに、今は完全に裏切っている。
 それほど昔のことではないはずなのに、壊れてしまうのは一瞬だったと今になって思い知る。

「もしかして、私服?」

 オカ研にいたのだから、そんな偏見を持たれても不思議ではないのかもしれない。
 しかしながら、断じて紗綾の趣味ではない。
 黒を着ることすら少ない。

「違うよ。部の備品……だと思う」

 おそらく嵐の趣味で私物だと言うべきではないだろう。口が裂けても守らなければならない秘密だ。
 厳密にはまだオカ研部員であり、退部しても守秘義務があるはずだ。
 何より顧問が担任で、今も教室にいる。そちらを見ることは怖くてできないのだが。