翌日の放課後はクラスの手伝いを休ませてもらえることになった。もうやることはそれほど残っていないのだそうだ。
 心配してくれているのか、それとも、また厄介な人間が来ると困るのか。どちらでも構わなかった。
 気持ちはわかるのだ。十分に受け入れてもらっているのに、何もかも許してほしいとは言わない。
 いずれにしても、もう鈴子は来ないのだろうと思う。それに彼女以上の人間もいない。


 そして、今、紗綾の向かいでは彼が微笑んでいる。
 もう一つの顔など感じさせずに、ひどく穏やかに。裏を知らなければ、安心しきってしまうだろう。
 そうでなければ、彼の仕事はできないのかもしれない。

「連絡を下さって嬉しいです」

 榊海斗、将也と話した後に連絡をして、今日会うことになったのだ。

「こんなところで申し訳ありません」

 駅で待ち合わせをして、それから彼の案内で喫茶店に来ている。

「とても素敵なお店です」
「昔、よく一人で来ていたんです」

 新しい店ではないようだが、少し年代を感じさせる。
 行きつけになるのもわかる。落ち着いた雰囲気の店は彼によく似合うと紗綾は思う。
 目の前には美味しそうなケーキが置かれ、海斗がどうぞと促してくる。