「俺は今でも黒羽と友達になりたいと思ってる。いや、もう友達だと思ってる。でも、それは何でもかんでも許すってことじゃない」

 将也は厳しい表情をしていた。
 彼は紗綾の味方であり、十夜の味方でもある。
 けれど、それは無条件ではない。

「困ったことがあったら、いつでも言って。君を不幸にはしないから」
「大丈夫です。運は良くないですけど、不幸じゃないですから」

 それはほとんど反射的に言っていた。
 オカ研に入ってから辛い思いもしているが、世の中に転がる不幸に比べれば不幸と言うに値しないと紗綾は思っていた。
 今、この状況に陥ってもそう感じる。

「でも、君は今幸せだって言えるかい?」

 その質問には答えられなかった。
 不幸でないなら、それでいいと思っていた。
 幸せというものは、よくわからない。
 それからは、ずっと、その言葉が響いていた。