「えっと、誰をお探しですか?」

 自分にわかるだろうか。教師だろうか。
 そう思うものの、急いでいるからと逃げるわけにもいかない。
 正直、案内などは得意ではないのだが、よくそういったものに捕まるような気がしていた。
 話しかけやすいのだろうか。否、たまたま運悪く通りかかってしまっただけだろう。

「あなたがこれから行くところに彼がいると思うので、ついていっても構いませんか?」
「あ、はい、大丈夫です……」

 もしかしたら、嵐に用があるのかもしれないと紗綾は思った。卒業生と恩師の関係であっても何ら不思議ではない。
 なぜ、自分が行くところにいると思うのかはわからない。生贄のことを知っているのだろうか。
 考えを巡らせるものの、聞くことはできなかった。

「では、行きましょう」

 そうして促されるままに、ただ部室へと向かうだけだ。
 自分には主導権などないのだと感じながら。