途中で、紗綾は見慣れない人物の存在に気付いた。
 来校者のバッジを付けたスーツ姿の男は若く、卒業生なのだろうか。
 キョロキョロとして何かを探しているようにも見えるが、紗綾は通りすぎようとした。自分から声をかける勇気など持ち合わせていない。
 香澄にお人好しと言われようと見ず知らずの人間にまでではない。積極性はゼロである。
 しかし、その瞬間に目が合ってしまった。


「あの、すみません、人を探しているのですが……」

 控え目に声がかけられた。
 やはり何かを探していたらしい。
 香澄ならば迷わずイケメンと言うだろうと紗綾は思う。
 その顔に見覚えがあるような気もするが、じっと見るわけにもいかない。
 人の顔と名前を覚えるのは全く得意ではない。気のせいだろう。