あれから、あの女性が現れることはなかったし、圭斗も何も言わなかった。
 何事もなかったことにするのが、彼の望みなのだろう。
 だから、紗綾は触れることなく、このまま文化祭まで順調にいくと思っていた。
 少なくとも紗綾はそう思っていたのだ。否、そう思いたいだけなのかもしれない。
 何事もなく、できることならば楽しい思い出だけが残って欲しいとは思っていた。
 だが、何か嫌なことが起こるような気もしていた。杞憂であってほしいと願いながら。
 霊感などないのだし、ただの心配性だと打ち消し続けてきた。
 オカ研にいる限り、オカ研がある限り、本当の平和などないかもしれないのに。

 文化祭が近付いてきた放課後、紗綾は日直の仕事があった。
 そうしてモタモタと日誌を書いている間に少し遅くなってしまった。
 早足で部室に向かっている。嵐は事情を知っているし、慌てなくていいと言っているのだが、そういうわけにもいかない。
 早く部活に行きたいと言えば語弊があるが、急いでしまうのだ。他に居場所もない。