「できないことをできるなんて言わないっスよ、初めから」
「最初っから見て見ぬフリをする?」

 仕方ないことじゃないっスか、と圭斗は肩を竦める。

「肝心なところで助けられないのに、助けるフリをするのは見ないフリよりもひどいっスよ」
「でも、君と俺達が知ってる誰かはそのひどいことをしたんじゃないの?」

 探りを入れてくる嵐に圭斗は溜息を吐く。

「あいつは助けられるのに平気で捨てるような奴っスよ」

 圭斗の言葉は冷たく、その眼差しは空気を凍てつかせるほどだった。明らかな憎悪がそこに込められていた。
 それでも、二人にしかわからない世界に紗綾は一歩も踏み込むことができなかった。