「貴様の姿が見える男のところへ行け」

 それはこの場にいる人間には向けられていなかった。黒髪で白い服を着ているという女の霊への言葉だったのだろう。
 彼は言葉が足りないところがあるが、紗綾は過去一年の経験から推測していた。女は自分の死体を見付けてほしくて、近くに遊びにきた彼に取り憑いたのではないかと。
 だとすれば、あとは将仁の仕事だ。
 女の霊がいなくなったのか、野島の兄は落ち着いたようにも見えた。

「えっと……月舘、解説してくれると助かるんだけど」

 何が何だかわからない、と野島は紗綾を見るが、紗綾にもはっきりしたことはわからない。

「もう大丈夫……、ですよね?」

 十夜を見る。彼は答えない。

「帰るぞ」

 その一言で背を向けられてしまった。

「待って下さい!」

 紗綾は慌てて、鞄から手紙を取り出して野島に渡すと、十夜の後を追った。