将也が向かったのは屋上だった。
 心地良い風が髪を撫でていく。
 けれど、同時に心に開いた穴をも掠めるのだ。

「やっぱり、何かあったみたいだね?」

 くるりと振り返って、将也は言う。
 彼には何もかも見透かされているような気がした。
 そして、隠すことに後ろめたさを感じてしまう。

「どうして、役立たずなのに、私があそこにいるんだろうって……そう思っただけです」

 何度も思ってきたことだが、これほどまでに強く思ったのは初めてだった。
 全く役に立たないわけでもないと十夜は言うが、大抵は役に立たないということを肯定されてしまっては何も変わらない。
 やはり役立たずなのだ。極稀な奇跡的なことなど当てになるはずもない。

「役立たずってことはないよ」
「毒島さんの考えがわからないんです」

 必要な人間なのだと魔女は言うが、理由は教えてもらえない。
 その名前に将也の表情が変わり、沈黙してしまう。
 魔女の名前は誰にとってもタブーである。将也にとっても例外ではないようだ。