「私は何もしてないよ」

 何かができるはずもない。何かをしたとしたら十夜だ。
 昨夜は否定されたが、きっと、そうなのだと紗綾は思う。彼が直接手を下さなくとも、その眷属ならばできる。

「ずっと苦しかったんです。でも、今朝になったら凄く楽になって、あなたの顔が浮かんだんです」
「私は……」

 何を言えばいいのか。傷付けない言葉を探しても見付からず、彼女が言葉を続けた。

「私、いつも自分からは何もしてなくて、こんなんじゃいけないって思っても、前に進めなくて、段々諦めてたんです」
「私だってそうだよ」

 初めて見た時から、自分と似ていると思っていた。同じように感じて、同じように考えていると思った。
 自分自身が流されるばかりで、一年前から何も進歩していていないことは痛いほど感じている。