翌朝、先に起きたのは善美の方だった。

「おはよ、紗綾」
「あ、うん……おはよう……」

 眠りに就く前はどう接するべきか迷っていたが、杞憂だった。
 善美は無理するわけでもなく自然に笑い、紗綾はいつも通りの寝起きだった。

「しっかりしてよ、紗綾。朝から暗い! 苦手なの? 普段から?」
「うん……いつも」

 あまり調子が良くない。
 それは夜のことがあったわけでもなく、いつも通りだった。

「あたしはね、なーんか、すんごく悪い夢見てた気がするんだけど、妙にすっきりしちゃってさ、何だろうね。紗綾も出てきた気がしたけど」
「そうなんだ……」

 彼女が忘れているなら、夢だと思っているのなら、自分は何も言うまいと紗綾は思う。
 忘れてしまった方が良いこともある。特に残酷なことを忘れられるなら幸せなことだ。
 だけど、それは本当の終わりではない。