「だが……いや、どうでもいいことだ」

 言いかけて、十夜は頭を振った。

「そこまで言われたら気になります」

 自分から言い出して黙るのは卑怯だと紗綾は思う。

「もう寝ろ」
「気になって眠れません」
「命令だ」

 ずるい。そう思うものの逆らえない。
 生贄とは言っても同列ではない。
 現時点で紗綾の序列は最も低い。それこそ、奴隷のようなものだ。

「……おやすみなさい」
「ああ……」

 渋々、紗綾は釈然としないものを抱えながらも踵を返した。
 きっと、明日にはこんなやりとりもなかったことになっているのだろうと思いながら。