異変が起きたのはその時だった。

「い……や……」

 静かに眠っていた善美が声を漏らす。
 単なる寝言だと紗綾は思ったが、苦しげな呻きは続く。

「やだ……こない、で……」

 恐い夢でも見ているのだろうか。
 どうしてやるのが、一番いいのだろうか。紗綾は迷う。

「なんで……なんでなのよ!」

 今度は急に叫び始める。
 心配になって起き上がった紗綾はそっと声をかけてみることにした。

「善美ちゃん……?」

 瞬間、ガバリと抱き着かれて、紗綾はドキッとした。
 彼女は起きていたが、様子がおかしい。

「ねぇ、いるの! なんかいるの!」

 また夕方のように、彼女は何かに脅えていた。
 だが、彼女が指し示す方向には何もない。