「でも、やっぱり……」
「私の責任です、はダメね」

 言おうとしたことを読まれて紗綾は何も言えなくなってしまった。

「話を聞くと言ったのは俺だが、今回の措置を取ったのは貴様だ」

 これは責任のなすり付けなのか。睨む十夜を嵐は笑って受け流す。

「それをさ、俺が素直に魔女に言うと思う?」

 魔王に脅されていることになっている嵐はオカ研の策士であり、日本文化研究同好会を潰した悪魔でもある。
 しかし、あの香澄でさえ恐れているとは言っても、紗綾はそこまで恐れるほど嵐の恐ろしい面を見たことがなかった。

「じゃあ、その辺りは後々考えてもらうってことで、今晩はゆっくり休むんだよ。善美ちゃんがいるから、夜這いに行くような不埒な輩もいないと思うし」
「センセーが一番不埒だと思うんスけどね」

 あんたが言うな、と圭斗が呆れた。

「センセー、恐いです」

 部屋の隅で正座をしていたリアムが小さな声で言う。

「んー? 何か言ったかなー?」

 笑いながら首を傾げた嵐にリアムは丸まっていた背をピシッと伸ばした。
 嵐に躾をされた彼は一体何を見てしまったというのだろうか。
 やはり紗綾にはわからない世界が目の前に広がっているようだった。