「俺にはわかんないっス。紗綾先輩、何かありましたっけ?」

 圭斗に話を振られて、紗綾は首を横に振った。
 彼との約束もあるが、紗綾自身は何もわからなかったのだから、嘘ではないのだと心の中で言い訳をする。
 しかしながら、嵐は目を細め、圭斗を見る。もう欺かれる気はないらしかった。

「あのさ、榊、何か力を感じたんだけどさ」
「そんなこと言われても、俺、ただの人なんで」

 鋭い視線を受けて、圭斗は肩を竦めた。

「ああ、そうだね。そう言うなら、君はただの人なのかもね。そういうことにしておくよ」

 疲れもあるのか、嵐はそれ以上の追及を諦めたようだった。
 そして、紗綾はじっと自分を見詰める十夜の視線に気付いた。
 彼は何かを言いたげではあったが、ただそれだけだった。