勢いよく扉を開けて入ってきたのは十夜だった。
 善美はノックなく開けたことを咎めはしない。
 紗綾は息が荒いままの十夜と目が合う。
 いつも冷酷なほど落ち着いた彼がこれほど取り乱しているのを見るのは初めてではないが、珍しいものである。

 前にもピンチに陥った時、そうして駆け付けてくれたことを紗綾は思い出す。彼は変わっていない。
 その後を追ってきた嵐もまた息が乱れているが、紗綾達を順に見て、十夜の代わりに問うた。

「無事?」
「見ての通り、何もないっスけど」

 圭斗は何事もなかったように答える。
 善美はまだ平静を取り戻していないが、何も語らない。
 紗綾も口止めされた以上、何かを言う気はなかった。

「いや、そう言われても、何かあった後にしか、見えないんだけどさ」

 嵐は溜息を吐く。
 平然としている圭斗と戸惑う紗綾、それはあまり変わった光景ではないが、明らかに善美に元気がないことはごまかせなかった。