その後は5月のことが嘘のように久保さんは優しかった。あの夜、色んな話をして
私と久保さんの距離は確実に縮まっていた。たまにメールのやり取りもしたりして・・・もう、彼氏への罪悪感より、久保さんへのドキドキの方が勝っていた。
たまに話をしたくて、徒歩5分なのに久保さんに誘われて寄り道して自宅へ送ってもらうこともあった。まだ、小指の打撲が治っていなくて久保さんが心配してのことだった。

6月も後半にさしかかり、打撲も治ってきた頃・・・

「妃咲ちゃん、また送っていくから
玄関で待っててね。」
と、言われた。さすがに彼氏への後ろめたさを自覚してきていた為
「もう、普通に歩けるんで大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
と、やんわり断った。これ以上、私の中の久保さんが大きくなったら困る。
そんな私の気持ちを知るはずのない久保さんは・・・
「俺が送っていきたいの‼」
と、言い出した。もう、その時の久保さんは可愛くて・・・彼氏への罪悪感を引きずりながらも断ることができなかった。もう、完全に浮気だったと思う。

この日は映画の話をした。
「妃咲ちゃんは映画観る?」
「ホラー映画とかアクション映画とか大好きです‼スパイダーマン観たいなぁ。」
普通は可愛く恋愛映画とか言うんだろうけど、久保さんに完全に心を開いてしまっていた私は自分を偽ることを忘れていた。もう、付き合う運命だったと思う。
ちょうど、この頃はスパイダーマン3Dが上映中で観に行きたいと思っていた。

「じゃあ、一緒に観に行く?」
ぇ、ぇ・・・・・・えーーーっ⁉
3度目の思考回路ストップ。
もう、罪悪感どうこうより久保さんしか見えなかった。
「はい。行きたいです。」
もう、Noの返事なんて頭の中になかった。久保さんと共犯なら良かったのだ。

次の日、出勤するとネットでチケット買っておくからと座席どこがいい?と
スマホを差し出された。
周りの目が気になったけど、興奮していた私はどうでも良くなっていた。

「座席はどこがいい?」
サプライズも嬉しいけど、この一緒に決めるっていうのも嬉しかった。

「首が疲れるので中間がいいです。」
この私の返答で、デートが決まった。
もう、この日はルンルンしながら仕事をしていたと思う(笑)。 久保さんも心なしか嬉しそうに見えた。

忘れはしない6月24日。
できるだけのオシャレをして久保さんとの初デートに臨んだ。
もう、私服の久保さんもカッコ良くて
キュンキュンしまくりだった。
車中では、時折手を握りながらお互いを確かめ合った。
言葉にしなくても両思いだったのだ。
この日は映画を観て、夜ご飯も一緒に食べて帰りは遅くなった。
そして、帰り道・・・私の家が目前に迫った頃
「ごめん。まだ帰したくない。」
久保さんは言葉を発するのと同時に私の家を通り過ぎて、あの謝罪をされた駐車スペースに向かっていた。
もう、これから何が起こるのか・・・
ドキドキせざるを得なかった。