あたし、塔野柚は18年間一度も恋をしたことが無い。
それどころか、女子らしい格好や行動もなにもかも
したことがない。高校を卒業してやっと始めたバイト。
3月から初めて漸く慣れたようなこの頃。
相も変わらずあたしはお金を稼ぐことに明け暮れて
今では家族から異常なほど心配されることも多い。
「柚、バイト生活じゃなくて、ちゃんと就職活動
したらどうなの?」
家に帰れば毎日この繰り返し。
あたしはそんな母の小言を毎日聞き流して
用意されているご飯を食べるのだった。
わかってる。このままじゃ駄目だといことも、
わかってるはずなのに。
なにも行動しないのはきっとあたしが弱いから。
変わることを恐れてる。可愛くもないあたしが、
人並みに変われるなんて無理だとか。
そんなくだらないことばっか考えて、
結局なにもしないんだ。それをずっと繰り返してる。
こんなあたしが変われるとしたらそれは一体
どんなあたしになるのか。想像すらできない。
「柚。」
そして最もあたしが嫌いな存在がバイト先に
いることも、あたしの中のイライラ要素である。
周防凛。
イケメンで彼女持ち。バイトの女の子たちからも
人気がすごい。21にしてマネージャー兼店長。
店長はいるけど、お飾りだからコイツはいろんな
意味で凄い奴。認めたくはないけど。
そんなこんなであたしの、生活は始まるのだ。
