嫌な夢だった。
HR直前の、ガヤガヤと騒がしい教室で、夏来はぼんやりと窓を眺めていた。
昨日の夜、雨が降っていたようで窓のそこかしこに濡れた桜がくっついている。
「夏来さん、夏来さん。」
ふいに呼びかけられて、横を向くと髪を三つ編みにした大人しそうな女の子がこちらを見ていた。
佐藤春子、大人しくて特別目立たない子だ。頭は良くて、テストはいつも学年二位だ。
「春子、どしたん?」
「あは…今日稲葉君いないみたいなので、少しお話しようかなって。」
そう言って前の席にすわると春子はニコッと笑った。
「…別に、潤も悪い奴ではねーよ?ちょっと餓鬼なだけで。今度仲介してやろーか?」
「いえいえいえ!結構です!」
春子は首を横に振って全力で拒否する。
春子の潤嫌いは、多分一生かかっても治らないと思う。
素行不良、煙草だの酒だの手を出している割に頭はよく、学年主席で委員長。
多分それが気に食わないのだろう。どんなに頑張っても二番止りなのだと愚痴っていたのを思い出した。