夢を見ている。
夢を見ていると夏来が確信したのは、周りがあまりにも異様な光景だったからだ。
夏来は自分の教室の、自分の席に座っていた。
周りには誰もいない。
それだけなら普通なのだが、教室の様子がおかしい。
少しずつ、少しずつ。
透明な液体に、一滴ずつ墨を零していくように教室が暗くなっていく。
いや、黒に染まっていく。
徐々に、侵食していくように。
夏来は動けないでいた。
このままではいけないと分かっているのに、動けない。

ふわっと。
虹色の羽を持った蝶が舞い上がった。
その美しい羽が鱗粉を散らすたびに、教室から少しずつ黒が消えて、鮮やかな色彩が浮かびあがる。

教室から黒は完全に消え、美しい蝶はひらひらと嬉しそうに飛び跳ねていた。
夏来はそっと、お礼を言おうと蝶に手を伸ばした。

時空が歪んだ。
突如として、教室の壁や天井、机が真っ黒になり、ぐにゃり、と歪んでいった。
行き場を失った蝶は不安定な状態で舞い上がった。
天井に、大きな割れ目ができた。
それは意思を持っているかのようにグニャグニャと動いた。
まるで、口のように。
その口は、舞い上がった蝶を吸い込むようにして、
蝶を捕食してしまった。