「霧生です。」
黒板には綺麗な字で、夏目霧生と書かれている。
その前に佇む噂の転校生は、何というかすごく異様な物のように思えた。
異国の気配を纏う見た目に、無地の真っ黒なワンピース。
まったく教室とあっていない。
「夏目さんは、まだ制服が届いていないそうなんですよぉ。だから今日は私服なそうですぅ。」
教卓からかろうじて、このクラスの担任、宮澤先生の頭の先だけ見えた。毎日牛乳飲んでるくせに相変わらず小さい。
「よろしくお願いします。」
そう言って転校生…霧生は頭を下げた。
「皆さん仲良くしましょーね?じゃあー、霧生さんの席はぁ…。」
教卓の上によじ登った宮澤先生とばっちり目があった。
「…夏来さんのお隣とかどぉでしょう?」
てへへ、とはにかみながら宮澤先生は俺と霧生を交互に見た。
「私は構いません。」
「俺はどーでもいーよ。」
二人同時に言うと、宮澤先生は嬉しそうに、
「じゃあじゃあ、夏目さん、夏来さんのお席へどぉぞ!」
と言って教卓から飛び降り、夏目をエスコートした。
…はっきり言って、姉妹の散歩にしか見えない。または幼稚園の先生と園児だ。
勿論、宮澤先生が園児で。