佐倉夏来。中学二年。これでも女。
生まれてこの方、自分を女だと意識したことがない。
たかだか染色体が一個違うだけの事を、何でわざわざ気にしなければならないんだ。というのは、夏来の口癖だった。
もともとドライな性格で、他人に干渉しないタイプの人間なので、友達などと言うものとはほとんど無縁であった。
唯一、潤だけは夏来をなっちと呼び、親しくしていた。
稲葉潤。
夏来には分からないのだが、イケメンらしく、女子からの人気も高い。
そんな奴がいるから、夏来の株はどんどん下がるわけだ。
まあ、気にしない。
面倒事に巻き込まれるのは、夏来にとって一番嫌なことだ。
自分から首を突っ込んで問題を解決するような、名探偵気質の奴などゾッとする。
男っぽくて、比較的平和主義な不思議ちゃん。
今の夏来のイメージは、学校全体でこんな感じだった。
潤は、その容姿で女にも男にも好かれる。
今は女顔が流行りらしく、(潤は行き過ぎな気もするが…)学校全体で、平成のインキュバスとかなんとか言われているとか。
夏来には関係ない話だった。
夏来は平穏な日々さえあれば良かった、それ以上何もいらなかった。
この時は夏来は思いもよらなかった、転校生が夏来の平穏を怖す引き金になるなんて。