「そーいやぁよ、なっち聞いた?転校生の話。」
無視して寝ようとしたが、再度潤に話しかけられたことによって防がれた。しぶしぶ頭を上げて応じる。
「そんなもん教えてくれる奴お前以外いねーっつぅの。で?転校生がどうしたって?」
「なっちー。普通そこは、『転校生⁉どんな子⁉』…てぇなるとこだよ。なんでそー、ドライなのかなぁ…。」
ぶつぶつ文句言いながら、潤は手元の携帯を何度か操作してからよこした。
ディスプレイには、潤に劣らない美しさの少女が写っていた。
「夏目霧生さん。転校生。」
潤が横から説明して来るが、殆ど頭に入らなかった。
黒髪、黒目、黒い服。
それとは対象的に白い肌。
どんなにひどい心の持ち主でも、五秒は見惚れる。
「なっちー。どう?可愛くね?まあ、俺には負けてるけど。…なっちー聞いてる?」
空気を欠片も読まない潤の言葉で現実に急に引き戻された。
「俺は興味ねーや。」
そう言って携帯を潤に投げた。
「つれねーの。」
潤は不貞腐れたように席に戻って行く。
その途中に無機質なチャイムが鳴った。
周りの奴等が次々に自分の席に戻って行く。喧騒は残り、膨らみ、広がり、一層騒々しくなった。
「夏目、霧生。」
無意識にその名前を繰り返した。反芻して理解しようと言うように、何度も、何度も。