教室は、いつもよりガヤガヤと騒々しく、落ち着かなかった。
春風が桜の枝を揺する音と周囲の音が頭の中で混じって反響する。
「だりぃ…。」
大きな欠伸をして、顔を上げると見知った友人の顔が目の前にあった。
茶色い人懐っこそうな瞳に、肩まで伸びる黒髪。
白くて透明感のある肌と細くて綺麗なモデル体型。
世が世なら、百人は男をはべらせていそうな容姿をした友人は、にこやかにこちらを見ていた。
「おっはよー、なっち。相変わらず眠そうだなぁ。」
顔に似合わない、低く落ち着きのある声でそういうと、友人は意地悪そうな笑みを浮かべた。
「うっせぇよ潤。さっさと自分の席行け。」
朝から美人なんて見たくねーよ、俺のブスが際立つからどっか行け。そういう思いで睨みつけたが、向こうは気づいていないようだ。
「やーなこった。つか、なっちよぉ。仮にも女の子なんだから、その話し方どーなのよ？」
そう言って首をすくめる潤に腹が立ち、前の椅子を蹴り飛ばすと、潤は「おー、怖い怖い。」と言って苦笑した。
「それゆーなら、潤だって。男の癖に相変わらず女みたいじゃん。」
「ばぁか、俺はいーの。見た目がプリティーなだけなんで。」
潤はこれ見よがしにこちらに笑顔でウインクしてきた。様になっているのが悔しくて腹立つ。