ガラッと、
別段なんの変哲もない効果音と共に、明らかに異質で不釣合いなものが教室に入ってきた。
「夏目…さんだ。」
春子が怯えたように震える。
昨日とは違う、でもどこか似通った真っ黒なワンピース。
道行く者が二度見どころか、五度見ぐらいしそうな美貌。
何も写していないような真っ黒な目。
昨日とあまり変わらない異質さをまとって、『噂の転校生』は教室に入ってきた。
廊下がガヤガヤと賑やかだ。
昨日、霧生の噂を聞いた人が見物にやってきたに違いない。
だが、霧生は気にしていないようで、夏来と春子の横に座った。
「あ…はぅ…!な、夏来さん!お話はまた今度しましゅ!」
完全に雰囲気に圧倒された春子は情けない走り方で廊下に逃げて行った。
「…はよ、霧生。」
「夏目さんとお呼びください。おはようございます。」
親しみを込めて名前で呼ぼうとしたが、また失敗した。
どうも、霧生には嫌われている気がしてならない。
「んー…名前呼びって、嫌なもん?」
一応聞いたが、とうとう霧生は無視をし始めた。
諦めて霧生から視線を外すと、たくさんの目と、目があった。
驚きと期待と不安と好奇心がつまった目をして、教室や廊下の生徒がこちらを見ている。
「…学校の不思議ちゃんが、噂の転校生と親しげに、とか言われてなきゃいんだけど。」
多分、そんな感じのことが学校中に広まるだろう。
夏来は深いため息をついて、机に突っ伏した。