マンションに着くと
美紅はスラスラと頑丈な鍵を開けて
オートロック式の扉の奥には
大きなリビングが見えた。

「どうぞ」
「ん」

美紅の家に足を踏み入れると
思った以上に広いシンプルなリビングがあった

「どっか座って?
立たれても困るからさ
コーヒーでいい?」
「あぁ……」

美紅に言われた通り
俺は高級感溢れる赤いソファーに座った。

「無駄に大きい家でしょ?」

キッチンから聞こえる美紅を見る。

「本当はこんな家いらなかったんだけど
社長が契約してるんだから
ここに住めってしつこくて……
私と同じ会社で働いている人も
みんなここのフロアに住んでるし。
家賃も全部払ってくれるっていうから
そのまま住んじゃった」

いつの間にか隣に座って俺にコーヒーを差し出す。

「でもねその代わりに家政婦として
10年以上働かないといけないんだけど。
あと半年くらい。
風磨は?お医者さんでしょ?」
「あぁ、心臓外科医な」
「結構ハード?」
「まぁな。
でもこの職業は好きでやってるんだし
別にいいんだ。」
「そっか……」

そのまま美紅はレモンティーを一口飲んでから口を開いた。

「社長はね、命の恩人なんだ」
「え?」
「私が死にそうになった時
3回も助けてくれた」

俺は思わず美紅に目を向ける。

「初めて会った時は……
あの電車事故の日」

美紅は下を向いて
その時のことを教えてくれた。

「その時ちょうどトイレに行ってた。
それでトイレから出た時に
事故が起こったわ。
私立ってたから
壁に叩きつけられて気絶してたの。
それで目を開けたら
焦げくさいにおいがして立ち上がると
私達が乗っていた車両から火が出ててね、
双子の姉弟
愛(あい)と翼(つばさ)っていうんだけどね?
二人助けようと思ったんだけど
もう片方の車両ロック掛かってて
行けなかったの。
そんな時二回目の爆発があった」

たしかあの事故は3回爆発があった。

1回目は炎上した時。
2回目は半分の車両に伝わり
3回目は全焼した。

「2回目の時に、
私爆風でまた飛ばされたの。
それでもう私は足をぶつけて歩けなくなっちゃったんだ。
そんな時逃げようとしていた社長が
私に気づいて炎が近くまで来てるのに
わざわざ来てくれたの。
でも私最初助かるつもりなんてなかったの。
翼と愛がこの中にいるなら
私も一緒に死のうと思って
社長を突き飛ばした。
けれどね、社長は私を引きずって
無理やり電車から出したの。
それから私達が外に出て
少し離れた時に全焼した。
そんな無残な姿に
私どうしたらいいかわからなかった」