「ところで、玉ってどういうの」
聞くと、水神は親指と人差し指で丸を作った。
「これくらいの、青いやつです。中の光が暗くなったり明るくなったりします」
加奈はかぱりと口をあけた。自室に走り、壁から泣く泣く玉をむしりとり、妹の部屋に戻る。
「これのこと?」
「それです!」
これで元通りになるはずだ。
水神に何度も頭を下げてからドアをしめかけたとき、母がドスンドスンと二階から駆けおりてきた。
水神の首根っこをつかんで玄関に引き戻すと、悪どい笑みを浮かべてライターを掲げた。もったりとした灯油の臭いが漂ってきて、ぎょっとする。
「お、お母さん?」
「心配ないわ、お母さんが退治するから」
言い終わるなり彼女は自身に火をつけた。
加奈と亜紀は、うひゃあと飛びのく。
「午後二時の火だるまさん!」
妹が指差す。ぼうっと燃えあがった姿は、確かにそうだ。
我が家はワイドショーの塊じゃあないか。しかも、人様に迷惑かけるなが口癖だった母が、おもいっきり傍迷惑だ。
「お姉ちゃん、しっかりして」
ふらついた体を妹に抱きかかえられる。
水神は困ったように頭をかいて、ぷうっとほっぺを膨らませた。次の瞬間、大量の水が吐かれ、母があっけなく鎮火されていく。
加奈は最後まで見ずに、意識を手放した。
爽やかな朝だ。
窓からは薄日がさし、電線では雀が鳴いている。
なんだ、やっぱ夢か。
加奈は平凡な家族を用意してくれた神様に心から感謝して、ベッドで背伸びした。
鼻歌まじりに制服に着替え、下へおりる。
そして全てが昨日実際に起きた出来事だったのだと悟った。
特効服を着た亜紀と人魚男が卓につき、ボールのように着ぶくれした母が朝食を作っている。どういう話し合いが行われたのかは不明だが、みんな隠すのをやめたみたいだ。
鞄を抱えてそっと家を出る。
人魚男はともかく、火だるまは危険すぎるし暴走族も騒音被害をだしている。身内の責任として、なんとしてでもやめさせねばなるまい。
晴れた空の下、冷たい風を浴びながら、固い決意は決めたもののの、とにかく今はできるだけ遠くに逃げてみんな忘れてしまいたいと願う加奈であった。


