『まあ、何だかんだで単独の線が強まったじゃねェか。断定すんのはまだ早いけどな。』
『そうだね。浩子さんの報告じゃあ仲間に連絡を取る素振りも無いみたいだし。』
新薬のデータについては無事にUSBへ移し終えたようで、依頼完遂と同時に学へ渡せば良いし、それまでは念の為此方で保管しておく事にした。
――先の出来事から警戒して、部屋に入って仲間と連絡を取り合う事も考えられるけど、八代の言う通り大方単独だな。態度に出てるんだから分かりやすい奴…。本当にこの道のプロなの?
未だに苛立ちが収まらないのか、黒野の歩幅は大きくペースも早い。一時的な苛立ちは分かるが、仲間がいるなら此方の正体を突き止める等といくらでも機転は利く筈。それをこうも引きずると言う事は、単に奴の性格の問題なのかもしれないが、確実に焦っている証拠だ。
何故、焦るのか。
予想外の展開に?再び邪魔が入ったから?
違う。それ位の事はプロならばすぐに切り替えが出来る範囲。
一人である事。仕事の期日が決まっておりまた、それが近い事。新薬のデータが奴の計画に必須な事。
焦る理由として推測出来るのはこの位か。
――だけど、単独にしてはパソコンの件について全く粘らなかったな。相手が立間なら上手く言いくるめる事も出来ただろうに。それとも、既にパーティーの日に狙いを切り替えたのか…。
『単独でも、此処で単独なだけで埼玉の方に組織連中がいる事も考えたけど…連絡を取らないって事はこの線も無いね。』
『ああ。何も分からないだろうからって、糞豚の前で堂々と本体の方にハッキングして来た辺り、結構焦ってんな。』
『……でもさ、黒野は新薬のデータを使って何をするつもりなんだろう。社員リストから過去の就職先について調べて、その企業で彼が起こして来た事件同様にハトヤマ社、あるいはその社員の誰かを貶める為に動いているって言うのは分かるけど…。』
『まあ、気にはなるが今回俺等はオマケみたいなもんなんだし細かい事は気にすんなっ!』
『いやいや、気にしようよ。……何か八代がいると緊張感が削がれる。』
「同感ね。」
住宅地を抜けた所で黒野が細い道に入る。人が二人並べば道幅が埋まってしまうような狭い道だが、抜け道や近道と言った類いなのだろう。街灯も無い。
