株式会社「C8」





――ハトヤマの時も凄い顔してたし、予定外の出来事には弱いのか。計算高い頭脳派には良くある反応だけど……ん?


立間と話をしている最中、黒野が右手で自分のポケットを漁り始めた。中から半分だけ顔を覗かせたのは携帯だ。


――あれは…あたしと同じ機種。仲間に連絡してるのか?


単独の線が薄くなりかけたその時、本人が弄っている携帯が鳴った。

否、意図的に鳴らせたのだ。


――あのライトの点滅の仕方はフェイク着信…。成る程、理由を作る為とは言え律儀な奴。口だけで何とでもなるのに。ま、そういう事なら此方もそろそろ…。



「……ああ、分かった。すぐに行く。」


「……何?急用?」


「すまない、仕事の事でトラブルがあったようだ。」



ああ、確かに。浩子は黒野の言葉に頷く。

奴にとって今の状況は仕事上のトラブルであり、言っている事は何ら紛れもない事実だった。

見え透いた演技を終え、黒野は足早に店を出て行く。一人残された立間は奴が置いていった金を見つめ、ブツブツと文句を垂れていたがすぐに別の男に電話を掛けようとしていた。電話の相手が男だと判断した理由は言わずとも分かるだろう。


浩子も皐月達との無線を再び繋ぎ、黒野の後を追って店を出る。立間のSPらしき男がスーツ姿で何人か立っていたが彼等に用は無い。

涼しく快適だった店内とは違い、外に出た途端ムワッとした蒸し暑い夏の空気に身体を包まれた。しかし、いちいちこれに嫌悪を抱いているような暇がある訳でもなく、黒野の後ろ姿を確認した浩子は奴の尾行を開始した。





『浩子さん、立間達と何か話してませんでしたか?』


『顔、見られてねェだろうな。』


「…………。」



ネオンが光る街から少し外れ、街灯が疎らな住宅地を行く黒野。

時間も遅い為、民家の明かりもぽつりぽつりと言った感じで夜道を歩くには心許ない。自然の明かりと言うか、月も雲に隠れてしまっており辺りは暗闇だ。しかし、夜目が利く浩子にはしっかりと奴の背が見えている。

通る車もほとんど無く、この静寂にやたらと響くのは虫の声や前方にいる黒野の足音のみ。唯一気になると言えば、遠くの方で轟く何台ものバイクのエンジン音くらいだ。

その闇に紛れ気配を消した彼女は、静かに皐月達とやり取りをしつつ黒野を追う。