「………。」
「どうなの?」
「…もう少し待ってくれ。」
皐月と同じペースだと考ると、既に名義やフォルダの確認は終えていてもおかしくない。フォルダの中身は元々空なのだから確認も何も、三秒でデータの有無は分かる。
それでも尚、手を止めないと言う事は…。
――本体にハッキングか。
ダミーのパソコンから、直接立間のパソコンにハッキングをしていると見て間違い無いだろう。研究データは抜き取り中だが、八代が彼女のパソコンから直接保護した為、慌てふためくような事は何も無い。
案の定、黒野は怪訝そうに眉を寄せた。やがて、手を止めUSBを抜きノートパソコンを立間へ返す。
「誤作動じゃ無いみたいだ。名義も君の物じゃ無かったしな。」
「名義まで分かるの?」
「ああ。」
「…何かごめんなさい、こっちからお願いしたのにドジしちゃって。まあ、確認は何度もしたし最悪な原稿にはなってないと思うけど、休み明けにもう一度確認しておくわ。」
――さて、どう出る?探ってくるか?
「…君のパソコンは、他の社員も触るのか?」
「触らないわよ。社員には各々にパソコンが与えられているもの。」
「最近、仕事の用で他の社員に使わせたと言う事は?」
「無いけど…どうして?」
「…いや、……何でもない。」
まさか、立間本人自らが新薬のデータを保護したとは思えないだろう黒野は、未だ姿も分からない此方の仕業だと気付くのは当然。
そして、皐月の失敗から再び外部操作によってそれが成れたとは考えにくい。従って、彼女のパソコンから直接細工したと言う事もすぐに察しが付く事。その流れから彼女の近くに細工した人間がいると踏んでの問いだったのだろうが、それに気付いたところで八代はもう立間の職場に出入りする事は無い。
それに、ここで本人に「君のパソコンは外部からハッキングされている、今すぐ会社へ戻り確かめた方が良い」等と彼女が知り得ない事まで奴の口から言える筈も無く、実質この場では打つ手が無くなったと言う訳だ。
浩子は黒野が苛立ちを感じているのを見逃さなかった。空になったグラスをしきりに揺らし、中の氷を弄んで音を立てる様子から落ち着きを無くしたのが見てとれる。
