株式会社「C8」





「………あら?」


「どうした?」


「パスワードが読み込み不可って…。」


「…………打ち間違いじゃないのか?」


「まさか。………ああ、やっぱり駄目ね。他の社員のと間違えて持って来ちゃったかしら。でも、確かに自分のデスクのを持って来たと思ったんだけど…。」


「………………。」



黒野は察しが良い。

今のやり取りで何か思う所があったのだろう、疑惑の念を湛えた狐目が立間の持つノートパソコンを睨んでいる。



「嫌ね、そんな目で見ないでよ。わざとじゃないのよ?」


「…ああ。ちょっとそのパソコン貸してくれないか。」


「え?…良いけど、何するの?」


「誤作動か確認しよう。」


「どうやってそんな事…。」



成る程、ハッカーならパスワードを見付け出し中を確認する事等容易い。立間の前だからと言って、それをしないと言う訳ではないようだ。

上手い事言い訳をしてパソコンを手にしたが名義を調べるのか、それとも新薬のデータの有無を確認するのか。

どちらにしろ、ノートパソコンの名義はCHM社の研究員の物にしており新薬のデータは無いのだ。完全に赤の他人のパソコンと言う事になっている。



「…ちょっと、それ何のUSB?」


「私用でたまに使っている物だ。俺のパソコンも誤作動は稀にあるからな。それを正常に再作動させる為の物だよ。仕事の日も常に持ち歩いているんだ。」



――ま、素人には良い嘘だな。


奴には慣れた作業だろう。素早くUSBを差し込み、カタカタとキーボードを叩き始めた。たちまち画面が黒くなり、浩子も見慣れている緑の文字が物凄いスピードでスクロールし出すが隣の席ではない為、何を確認しているかまでは分からない。立間も何が何だか分からないまま黒野の手元を眺めているだけだ。

しかし、皐月達は奴のしている事が手に取るように分かっている筈。ダミーのノートパソコンと皐月のデスクにあるパソコンとは回線を繋げてあるし、もちろんそれを感付かせるような痕跡は全て消してある。

その皐月達の方から浩子に無線を繋げて来ないと言う事は、全てが想定の範囲内であると言う事なのだ。