「…俺も、亡くなった友人を思って酒に溺れる事がある。そんな時は、浸れるだけ浸ってそいつを思ってやると良い。存在を忘れられる程、寂しい事は無いからな。」
「え~?なにそれ、まさか女じゃないわよね?」
「幼馴染みだった男だよ…。」
――は?何言って……。
聞き間違い、では無い。
此処は自分の存在を知られていたのでは無かった事に対して安堵するところなのに、あの悪人顔が人間臭い事を口にした事実に驚くと共に、何か――
何か面白くなかった。
「………。」
否、もっと的確に言えば「気に食わなかった」だろう。
この人はこうであるべき、こうであって欲しい、と言うような固定観念に背く発言にそう感じたのだ。
目付きに顔、ハトヤマで発見した社員リストから浮かび上がった奴の所業…。
決して自分の言えた事では無いが、浩子の中では既に黒野は「悪」あるいは「敵」、そう言う位置付けが成されていた。
しかし、今回の一件が終わればもう奴に会う事も無い。そんな固定観念等一種の個人的な「キャラ設定」にしか過ぎず、いちいち構う必要性も皆無な事くらい浩子にも分かっている。
それなのに、今の発言に対して不満を感じてしまったのは恐らく――
――「嫉妬」。
固定観念云々の前に、どこか冷めている自分よりも人間らしく、そしてそれを口に出して言葉にする事が出来る黒野に嫉妬したのだと思う。
――いや、でも…。
その考えだと、こないだ八代にぶつけていた苛立ちも嫉妬から来ていた事になるが…。
――違う。あれはそんなんじゃない…!
妙な焦燥感に囚われ始めた浩子の思考は、耳元から漏れ聞こえた立間達の声によって冷静さを取り戻した。立間がノートパソコンの電源を入れたようで、内臓型盗聴機能が作動したのだ。
と言っても、浩子の方はこの距離故に盗聴機能を利用する必要は無さそうである。
二人が会話を運んでいた事にも気が回らなかったのは後で反省するとして、今は黒野から目を離してはいけない。
――何も考えるな…あたしらしくもない。
