少なからず奴も同業者であり、どのような事を主な仕事として請け負っているのかは分からないにしても、下手に動けば気付かれてしまうだろう。
現に、ハトヤマ先入時には何らかの理由で此方の気配を感付かれたのだから。
「でね、もうずっとバタバタで大変だったのよ。部下は何もしてくれないし一人で辛かったんだからぁ。」
「随分お疲れだな。でも、良く頑張ったじゃないか。」
二人は会話をしながら手元に置かれたカクテルを楽しんでいる。今のところ、まだ本題には入っていない様子。
何と言うか…、悪人顔の黒野と色気を纏った立間が並ぶと任侠映画のワンシーンを思い浮かべてしまう。
宛らその道の人間と愛人。
――確か、雅が任侠物好きだったっけ。
思考の流れで死んだ雅の事を思い出していると、無意識に愁いを帯びた表情になっていたのか、間の悪い事にカウンターにいたバーテンダーが突如浩子に声を掛けた。
「お客様、悩み事は誰かに話すと案外スッキリするものです。今は私しか聞いておりませんので良かったらお話に――」
「あ、いや…大丈夫です。」
――マズい…
バーテンダーの声に、二人が浩子の方を向くのはごく自然の反応で…。
咄嗟に俯き顔を隠すがその場をやり過ごす事は出来ず、何を血迷ったか黒野の隣にいた立間が浩子に興味を示し言葉を投げ掛けて来た。
「ふふ、失恋でもしたの?」
「!!、……。」
見当違いも良いとこだ、とはとても言っていられない状況になってしまった。
黒野の方は然して興味無さげな様子で此方を見ている。
――あぁ…想定外。野郎、余計な事を…。
どうやって切り抜けようものか…。
立間はノートパソコンの電源を入れるどころか、未だ鞄にしまったまま。その為盗聴機能が作動しておらず八代達は今の状況を把握出来ていないだろう。鞄に仕掛けている盗聴器では途切れ途切れで隠ったような声しか拾えていない筈だ。
従って、助言を求めようにも無線を繋げ、一から状況説明を要する形になってしまう。
もちろんそんな暇は無い。
彼女の興味を自分から遠ざけるような切り返しをしなければ…。
「はい、そうです。」と答えても彼女の興味はより此方に傾くに決まっている。学の話や日常における言動からプロファイリングし、その結果浮き彫りになった彼女の性格から考えるとそれは明白だ。
