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事務所で待機していた二人の元に、「立間が退社した」と言う連絡が入ったのは午後九時。
彼女の鞄に仕掛けている盗聴器より漏れ聞こえた本人の声から、二人がバーで落ち合う時間はその一時間後と判明し、浩子はその十五分前に「jelact」へ入店していた。
八代もタイミング良くパソコンをすり替えたようで、立間のノートパソコンを持ち帰り皐月と共にデータの抜き取りをしながらその時を待っている。
一応、二人が何処に座っても姿を確認出来るように、浩子は左右のカウンターでは無く中央の奥にあるカウンターに腰掛け、意識を店の入り口に向けつつノンアルコールカクテルを片手に客を装う。
『店で待ち合わせって…、確かにあの糞豚ん家には篠原がいるもんなァ。迎えになんて来られて篠原に見られでもしたらそれこそ修羅場パターンってやつだ!女って怖ェなホント。』
『そうかな?単に彼女が腹黒いだけだと思うけどな。』
『あァ?何だよ、ノリ悪ィ眼鏡だな…。お前女でも出来たのか?』
『はっ?えっ!?ななな、何でそういう事になるんだよっ?』
『おっ、図星か。そんな事聞いてねェぞ!詳しく話せコラ!』
右耳にパソコンの盗聴機能と連動している受信機を、左耳には小型無線機と繋いだ受信機を。二人が姿を現せば無線機の電源を一旦切る為、それぞれを聞き分けなければならないと言う聖徳太子のようなスキルは必要無い。
小型無線機の受信機から皐月と八代のどうでも良いやりとりが浩子の耳に入って来るが、時間が迫るのにつれ次第に緊張感が高まり全く頭に入って来ない所か雑音に聞こえ、彼女のイライラを募らせる。
店内は良い具合に空いていて、他の客の会話が二人の様子を窺う邪魔になる事は無いだろう。
『あ、浩子さん!彼女達が店の駐車場で落ち合ったようです。では、一旦無線を切りますが何かあったらまたすぐに繋げて下さい。』
『おい眼鏡、話はまだ――、』
「お前ら、真面目にやらないとガチで減給だから覚えとけ。」
『……うぅ、八代のせいだ。』
鞄に仕掛けている盗聴器から、彼女達が合流したと分かったようだ。減給宣告をして無線を切り、静かに入り口が開くのを待つ。
――データは奪えないとしても、立間を殺されでもしたら此方のおしまい…。否、大丈夫。向こうもデータが必要なんだから立間を殺す事は無い筈。
