株式会社「C8」





立間と黒野が接触している間の盗聴は皐月と事務所に戻る八代に任せ、浩子は例のバーで彼等の様子を観察し、やがて帰宅する黒野を尾行する手筈になっている。

実際に黒野を目の前にするのだから皐月は少し興奮気味だ。奴とはハッキングで直接対峙している為、興味があるのだろう。



二人が事務所で待機しているこの時、八代はCHMの第一研究室にて例の如くラットの世話や昨日の会議で使った資料の整理をしていた。

今日は発表原稿の仕上がりを確認すると言う名目で、数人の研究員も最後まで立間と研究室に残るようだ。実質はパシりなのだが…。

彼女はひたすらキーボードを叩いており、八代には朝軽く挨拶をした程度で全く絡みに来ていない。それほど熱心なのだろう、画面と向き合う彼女の眉間には皺が深く刻まれていて誰が声を掛けても無反応だ。

八代も彼女が退社するタイミングまでは黙って言われた作業をするしか無い。

持ち込んでいるダミーのノートパソコンは二台。一台は立間に彼女のパソコンとして持ち出させる物。もう一台はこの研究室に彼女のパソコンとしてデスクに置いておく物。

本物のノートパソコンは一度事務所に持ち帰り、新薬の研究データを抜き取った後に処分する。

立間は明日と明後日、休暇を取ったようで会社へは来ない。黒野へ差し出すパソコンが自分のでは無いと気付いてもそれを会社で確認するのは誕生日パーティーの翌日。

その時にはもう彼女はこの世に居ない。

積み重なった疲労もあるだろう。休暇中に会社へ来る事はまず無い。確認なら土曜日でも間に合う。

そこで、最初は断る予定だったのだが明日は立間と飲みに行く事について了承した。

黒野が組織の人間ならそこで彼女を殺せば良いし、単独であったとしてもデータを奪おうと動いて来るであろう黒野から彼女への接触をその日は避ける事が出来る。

黒野の尾行等も考え、あまり人が知らない穴場スポットへ連れて行く予定。追跡されてしまっても複雑な地形をした場所な為、上手く撒ける筈だ。



「……桜井君。」



脳をフル回転させている所、頭上から柔らかい声が降ってきた為思考を一旦停止させ振り向く。



「…副室長。」



正直に言えば、今はあまり関わりたくない。きっとこの人と話せば、また自分の中でモヤモヤとした物が広がるだけ。

全てが終わった後、彼とは一度ゆっくり話してみたいと思うけれど。