「……また八代が我が儘言ったんだ。」
「ちげ-よ、社長がどうしても飲みたいって言うから…」
「…嘘。浩子さんはお酒苦手でしょ。」
やはり事務所に入るなり、皐月は小言を漏らして来た。
浩子は浩子でソファーにダイブしたまま動かない。
「まぁ…別に良いんだけどさ。盗聴も特に変わった事無かったし。」
「ふぅん。」
「ツンデレも程々にしときなよ?」
「だから、会話が噛み合ってね-って。」
八代は私服姿のまま尊のデスクの机上にドカッと腰掛け、持ち帰ったスーツのポケットからガーデンホテルの見取り図を取り出す。昨日全てを把握する事は出来なかった為、残りを今日中に覚えておかなければ。
皐月も自分の仕事に戻り、事務所の三階はしんと静まり返る。爆睡してしまった浩子は完全放置。
今日は酒を飲んだ事も含め、八代は車を置いてきてしまっているので必然的に帰れない。
皐月も昨日はゆっくり休んだからと、朝まで仕事をすると言う。
「眼鏡、社長起きたら24時間やってる銭湯行こうぜ。」
「着替え無いんだけど。」
「最近のコンビニは下着くらい売ってんだよ。」
「移動手段は浩子さんの車しか無いけど、彼女が一緒に来ると思う?」
「……。」
「八代車置いて来たんだよね?CHM行く前には取りに行きなよ?」
「…何かお前冷たくね?」
「………ゲーム機取られたからね。」
何気ない会話。
浩子の言う通り、皐月はまだまだ子供っぽい一面がある。年齢的には当然なのだが、彼は裏社会の本当の恐ろしさを知らない。浩子があまり深い所まで彼を関わらせていないからだ。
皐月が成人するまでは目をかけるつもりらしいが、彼は自分の意思で此処にいる。男なら年齢云々ではなく、自分の尻は自分で拭く物。
――――「過保護」。
流石は慎也の妹。本人に自覚は無くとも可愛い弟のように思っているのだろう。やっている事はまんま兄だ。
「……天の邪鬼だな。」
その後、各々が仕事に没頭する中浩子が起きたのは午前3時になってからだった。慌てて皐月と仕事を交代し、朝日が昇ると同時に自宅へ送り届け、彼女も一旦帰宅。もちろん、八代は自分の足で車を取りに行きCHMに潜入した。
午後2時に再び浩子と皐月は出勤し、八代からの連絡を待つ。パソコンのすり替えが終了した所で、今日のミッション開始だ。
