雪国は、グラスの縁にまぶした砂糖がその名に由来しているカクテルだ。
「…………なァ。」
「………。」
「昨日の事だけど……。」
「何よ、謝らないわよ。」
カクテルを待つ間、流石に気まずくなった浩子はバーテンダーの仕事ぶりを眺める事で意識を反らしていたが、とうとう八代が昨日の出来事について触れてきた。
「……別に謝らなくて良いよ、撃たれてねェから。でもやっぱり俺はお前の考えてる事が分かんねェし理解出来ねェ。」
「……そ。」
「…………三年前、何かあったろ?」
「………どうして。」
「お前が変わったのは、慎也が死んでからだろ-が。」
「…家族が死んだら誰にだって心境の変化くらいある。てか、慎兄を呼び捨てで呼ぶな。」
何もおかしな言い訳はしていない。
しかし、今の発言はあまりにも不適切な物だった。彼の父親を殺した自分が言って良い事では無い。
いくら憎んでいようと、嫌っていようと血の繋がりがある限り家族なのだ。自分の父親が死んだ事を知れば、彼にだって心境の変化はある筈だ。
「……そうか。それにしても随分俺らに対して冷めてるよな。」
目の前に差し出されたグラスを手に取る。
「うん。……でも別にあたしは疑いを持てとか、必要無い物は切り捨てろとかそう言う事が言いたい訳じゃない。」
グラスの底に沈むチェリーをぼんやり見つめ、白く濁った液体を口に運んだ。
――そういえば、何であたしコレ頼んだんだろう。ウォッカ苦手なのに…。
八代は浩子のグラスをじっと見ている。何を考えているかは分からないが、強い酒が苦手な筈の自分が「雪国」を飲んでいるという事について、いささか不思議に思うのだろう。
じゃあ何が言いたいのか。彼は言葉の続きを催促した。
「……あんたの考えは、自分を苦しめる結果を招くだけよ。この世界にいる限り。人は見た目や少しの会話だけじゃ本性なんて分からないじゃない。」
今の彼女は、冬真に言わせれば慎也の二の舞手前。けれど、浩子にとっては傷付かない為の防衛手段なのだ。
「…心配してくれてんの?それとも、俺らの事なんて信用してませんって言いてェの?」
「……さあね。」
本質的な物は伝わっただろう。以降、彼はこの話についてはそれ以上追及して来なかった。
「この話」については、だが。
