一番しっくり来る考えは、彼が警備員をしているハトヤマ本社の人間と言う事になるが、それでは矛盾する部分も出て来る。昨日、皐月に調べさせた事になぞって考えれば自ずと分かる話だ。
彼が過去に短期就職していた企業では必ず何かしらの事件が起こっていたのだ。今の状況はどこからどう見ても、ハトヤマ本社で何かトラブルを引き起こさせるような要素があるとは思えないが、きっと黒野はハトヤマの人間、又は会社そのものを窮地に追い込もうとしている筈。
真の狙いがハトヤマ本社そのものであるならば、クライアントがハトヤマの人間と考えるのは筋違い。自分の働く会社を捨てるような物だ。
まぁ、ハトヤマの社員の中にスパイがいるなら話は別だが…。
――要するに、前者…。
ハトヤマは今回の学会に出席しない事になっているが、新薬のデータがあればその人間にとってまず出世は間違いない。
――向こうのクライアントは開発部、研究員辺りの上層部だろうな。
しかし、新薬のデータを手に入れその人物が出世した所で、ハトヤマの誰かを追い込む事に繋がるのだろうか?社内での詳しい事情は知らないが、その程度では黒野が起こしたと考えられる過去の事件と比べ物にならない程ぞんざいだ。
黒野はハトヤマで何がしたい?
何を企んでいる?
それとも、たまたま今回はそういうつもりで動いてる訳では無いのか?
どちらにせよ、そこまで首を突っ込むつもりは毛頭無い訳で、ただ少し気になっていただけだ。ハトヤマがどうなろうと自分達には関係の無い話。
「…………着いたぞ、中に入るか?」
「ん、黒スーツじゃ怪しいし私服に着替えるからちょっと外に出て。」
考えを巡らせていると、いつの間にかバーの裏手にある駐車場に着いていた。
今はあくまでも下見。
店内に入り、席の配置や盗聴器の音の拾い具合を見るだけ。
八代を外に出し、デジカメと一緒に持参していた私服に着替える。黒のダメージスキニーに、中央に細かなストーンでクロスを形作っているタンクトップを、赤のタンクトップの上から重ね着した。一応ネックレスやリング等のアクセサリーも身に付ける。
決して可愛いとは言えないファッションセンスだが、彼女は「カッコいい」と言う言葉の方が好きでこういう物を好んでいるのだ。
