車を停めて駐車場からビルへ移動する。

カツラした方が良かったなぁ、と少し後悔したがそのまま入り口の警備員に社員証を提示した。案の定すんなりと突破。侵入成功と浩子にメールで伝え、九階にある研究チームのロッカールームへと向かった。

もちろん男性用のロッカールームで白衣に着替えたのだが、ここから先が大切な第一のミッション。

あくまでも八代は情報収集役。

女性用のロッカールームに侵入し、立間希美のロッカーと服や鞄の中に小型盗聴器を仕込まなければならない。

問題は監視カメラ。



「コレ専門の奴は依頼でいねぇしなァ…」



持参した鞄を開き、ノートパソコンとケーブルに繋がれた電子器械、いくつかの盗聴器を取り出す。

パソコンを立ち上げ、ケーブルと繋ぎ深く深呼吸をする八代。

今から行うのはセキュリティ会社の管理システムへのハッキング。専門外だが多少は経験がある。

セキュリティ会社にアクセスし、大量のコードを入力しながら外部からのアクセスを防止するバリケードを破壊して行く。そして、電子器械から発する特殊電波に乗せてウィルスを送り付け、CHM九階女性用ロッカールームのカメラのみをスリープさせる。スリープと言ってもカメラの映像を一時停止させるだけ。その間に盗聴器を仕込むという手筈。

タイムリミットは長くて二十秒。セキュリティ会社だけに、ウィルスはすぐに破壊されてしまう。破壊されてしまえば警備システムが作動し電波を辿られ、こちらの居場所がバレてゲームオーバー。

また、コード入力をミスしても同じように此方の負け。つまりは一発勝負。


人の気配を気にしつつ場所を変え、女性用ロッカールームの近くにある椅子に腰掛ける。

できるだけ電子器械を隠して普通にしていれば何も怪しいことは無い。研究員がパソコンと向き合っているだけ。


立間希美のロッカーは入ってすぐの列の手前から四番目…。これは学からの情報。
どうやって知ったのか突っ込みたい所だがそんな余裕は無い。



「…行くぞ、…。」



八代は静かに呟いて、目の前のキーボードを弾いた。