午後六時、廃ビルの事務所。
八代と皐月、浩子も出勤して来たようで三人共三階に集まっていた。
「浩子さん、立間と黒野が明日の事で連絡を取り合っていました。」
「そう、場所と時間は?」
「22時、駅前にあるバーで待ち合わせです。既に予約はしてあるようで、店の名前は「jelact」。やはり原稿の仕上がりを見て欲しいと黒野に言ってましたね。」
明日は第一研究室潜入の最終日、タイミングを見て八代が会社のパソコンとダミーのパソコンとを入れ替える手筈だ。
今日は当日の事もあるしその「jelact」と言うバーの下見に行く必要がある。
「じゃあ下見行くわよ皐月…」
「いやいや、何言ってるんですか…。僕は高校生なので行けませんよ。ここはお二人でお願いします。」
「!、……。」
そうだった。八代を避けるように皐月を名指ししてしまったが彼は高校生だ。バーなんて入れる訳がない。
何やら気まずい雰囲気の中、八代はパーキングへ車を取りに出て行った。
「…………二人、何かあったんですか?」
このニヤニヤしている表情は何だろう…?皐月の意図は分からないが、別に話す必要も無い。得意のフルシカトで誤魔化す事にした。
とりあえず、店内の様子を把握する為デジカメを持参する。本当なら店内に盗聴器を仕掛けたい所だが、彼等がどこに座るかは当日にならないと分からない事だ。彼女の鞄に仕込んでいる盗聴器と、ダミーのパソコンに内臓した盗聴機能を頼る他ない。
少ししてから浩子は下に降り、八代の車で「jelact」へと向かう。目的地に着くまでの間、彼女は車内で流れるゆったりとした音楽にイライラしながらも黒野について考えていた。
黒野の目的が新薬のデータである事は間違いない。だが、黒野にも依頼主がいる筈だ。
それは一体誰なのだろう…?
まだ黒野は学の存在に気付いていない。現に学は生きているし、危ない目にも合っていない。奴にとって立間が全てのデータを所持している為、学は殺しても何の問題もない筈だが…。
とするとクライアントはCHMの人間ではないと考えるのが妥当。あの部所の大体の人間は、例の研究成果が彼女の物で無いこと位知っている。彼等の中にクライアントがいるならば、とっくに彼に学の事が伝わっていてもおかしくない。
